電源トランス(変圧器)は、商用電源(AC100V/200Vなど)の電圧を、機器の回路が求める適切な交流電圧へ変換・絶縁するための不可欠な受動部品です。本ページでは、電気・電子機器の設計者や調達担当者に向けて、電源トランスが電圧を変える基本原理(電磁誘導)、内部構造、絶縁クラスや安全規格の基本をわかりやすく解説します。
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1. 電源トランスとは?回路における役割と必要性
電源トランス(Power Transformer)とは、交流電力の電圧(100Vまたは200V)を電磁誘導を利用して電気機器が必要な電圧に変換する電子部品のことで変圧器とも呼ばれます。電源システムの基盤を支える重要コンポーネントです。略称:PT(Power Transformer)
一般的な電源トランスのエネルギー伝達は鉄心に巻いた1次コイルと2次コイル間の電磁誘導によっておこなわれるため電気的に絶縁されています。この絶縁機能によって出力側につながっている電気機器を保護しています。
なぜ機器内部で電源トランスが必要なのか?
- 適切な駆動電圧への変換:
コンセントからのAC100V/200Vを、電子回路が動作するAC6V〜24Vなどの低電圧に降圧するため。 - 感電・事故防止のための電気的絶縁:
一次側の高電圧ラインから二次側の操作部や出力部を物理的・電気的に分離し、ユーザーの感電リスクや回路の破損を防ぐため。 - コモンモードノイズの抑制:
商用周波数トランスは本来低周波用であり、一次・二次巻線間の浮遊容量(キャパシタンス)を介して高周波のコモンモードノイズが透過しやすい特性があります。この対策として、一次・二次間に静電シールド(接地された銅箔)を挿入した仕様のトランスを選定し、シールド層を適切にグラウンドへ接続することで、静電結合によるコモンモードノイズの伝播を効果的に抑制できます。
2. 電源トランスが電圧を変える仕組み(変圧の原理)
電源トランスは、ファラデーの電磁誘導の法則に基づいて動作します。電気エネルギーを一度磁気エネルギーに変換し、再び電気エネルギーとして取り出しています。
巻き数比(Turn Ratio)と電圧・電流の関係
トランスの一次側巻線の数を N1、二次側巻線の数を N2 とすると、入力電圧 V1 と無負荷時の二次電圧 V20(無負荷時)の比は、理論上巻き数比(巻数比例)に等しくなります。
変圧比の公式(無負荷時):
V1 / V20 = N1 / N2
ここで V20 は無負荷時の二次電圧を示します。無負荷時には巻き数比に応じた電圧が出力されますが、実負荷時には巻線の内部抵抗(銅損)や漏れ磁束による電圧降下(レギュレーション)が生じるため、定格負荷時には電圧が数%〜十数%低下する点に注意が必要です。
エネルギー保存法則と電流の変化
トランス内部での電力損失(銅損・鉄損)を無視した理想的な状態では、一次側の電力(V1 × I1)と二次側の電力(V2 × I2)は等しくなります。そのため、電圧を降圧した場合、変圧比に比例して理論上は電流が増加しますが、実務上の巻線抵抗や漏れ磁束による電圧降下を考慮し、余裕を持った定格容量(VA)の選定が必要です。特に一般的なコンデンサ入力型整流回路を接続する場合、平滑コンデンサの充放電により電流が尖頭状(パルス状)の波形となり、二次巻線に流れる実効電流(RMS)は、コンデンサ入力型整流回路の特性上、直流平均電流よりも大きくなります。そのため、単に直流平均電流だけでトランスの容量(VA)を選定すると発熱や焼損の原因となります。設計時は、平滑回路の充放電に伴うピーク電流や実効値の増加を考慮し、十分な容量マージンを確保したトランスを選定することが重要です。
3. 電源トランスを構成する3つの主要要素

一般的な電源トランスは、主に以下の3つの部材で構成されています。
① 磁気コア(鉄心)
一次巻線が発生させた磁束(磁力線)を効率よく二次巻線へ導くための磁気回路です。電源トランス(50Hz/60Hzの商用周波数)では、渦電流損失を抑えるためにケイ素鋼板を重ね合わせた積層コアが多く使用されます。
② 巻線(Primary / Secondary Windings)
絶縁被膜(エナメルなど)が施された銅線です。ボビンと呼ばれる樹脂枠に一次巻線と二次巻線が巻き付けられます。ノイズ対策として巻線間に静電シールド(銅箔)を挿入する仕様もあります。
③ ボビン・絶縁資材(Bobbin & Insulation)
コアと巻線、および一次側と二次側の間を機械的・電気的に絶縁するための枠組みおよび絶縁テープ・樹脂(含浸材)です。
電源トランスの絶縁クラスと主要な安全規格
電源トランスは、一次側(商用電源の危険電圧)と二次側(回路の低電圧)を安全に切り離す命綱となる部品です。そのため、機器全体の安全性を担保するためには、使用するトランスの絶縁クラス(耐熱性)と、各国の安全規格への適合が極めて重要な選定基準となります。
① 絶縁耐熱区分(絶縁クラス)
トランスの内部巻線や絶縁材料が耐えられる限界温度を示します。連続通電時の温度上昇(許容温度上昇)を考慮して選定します。
| 絶縁クラス | 最高許容温度 | 一般的な用途・環境 |
|---|---|---|
| A種(Class A) | 105℃ | 標準的な小型民生機器・家電用トランス |
| E種(Class E) | 120℃ | 産業機器・汎用電源トランス(周囲温度と内部温度上昇の総和が許容温度内に収まるよう設計) |
| B種(Class B) | 130℃ | 高密度実装・やや高温環境用トランス |
| F種(Class F) | 155℃ | 大型産業機器・高耐熱仕様トランス |
- 最高許容温度は、周囲温度と内部発熱(温升)の合計値がこの限界内に収まるよう設計・選定する必要があります。
② トランス選定において考慮すべき主要な安全規格
完成品(電子機器・産業機器)が市場に出荷される際、あるいは各国へ輸出される際にクリアすべき主な安全規格と、トランスに求められる要件です。
- 電気用品安全法(PSEマーク / 日本):
国内で商用電源に接続される電気機器に必須の法律。電源トランス単体、あるいは組み込まれる電源回路において、規定の絶縁構造・絶縁距離および耐圧試験をクリアしている必要があります。 - UL規格(UL62368-1 等 / 米国・カナダ):
北米市場へ輸出する機器向け。感電防止、火災防止の観点から、トランスの絶縁システム(UL Insulation System)の認定や、沿面距離・空間距離の厳格な確保が求められます。 - CEマーキング(IEC / EN規格 / 欧州):
欧州連合(EU)域内で販売される機器向けの適合マーク。低電圧指令(Low Voltage Directive)やEN61558(変圧器の安全性)などの規格に適合する設計・試験が必要です。
③ 安全規格をクリアするための物理的設計要件
これらの安全規格をトランス単体および基板実装時に満たすためには、一次・二次間の沿面距離(表面に沿った最短距離)と空間距離(空気中の最短距離)、および厳格な絶縁耐圧試験(例:AC 1.5kV〜3.0kV / 1分間)をクリアする設計が不可欠です。小型化を追求しつつ、この規格上の距離をどう確保するかメーカーの設計ノウハウが問われます。
5. 用途・機能から選べる電源トランスのラインナップ
電気機器の仕様や設計要件に合わせて、小型の基板実装用から高効率な省エネモデル、産業機器用の高容量モデルまで幅広く取り揃えています。



